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大阪高等裁判所 平成10年(ラ)986号 決定

抗告人(占有者) Y

上記代理人弁護士 阿部幸孝

相手方(買受人) 有限会社神戸連合

上記代表者代表取締役 A

主文

本件執行抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  本件執行抗告の趣旨及び理由は別紙執行抗告状及び抗告理由書(各写し)〈省略〉のとおりである。

第二  当裁判所の判断

一  抗告人はこう主張する。抗告人は、買受人に対抗できる本件建物の短期賃借権者であり、競売開始決定前から同建物を占有してきた。そうであるのに、原決定は、これを看過し、抗告人に対して本件建物の引渡を命じた。よって、原決定は誤っており、取消しを免れない、と。

二  一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  債権者日本貯蓄信用組合は、平成三年三月二九日、債務者兼所有者である株式会社アクティインベストメントから、本件建物に極度額九〇〇〇万円の根抵当権の設定を受け、同月三〇日、その登記を経由した。

(2)  大阪国税局は、平成四年六月二六日、本件建物を滞納処分により差し押さえ、同月二九日、その登記を経由した。右差押は、平成九年一月一四日、解除され、同月一六日、その抹消登記が経由された。

(3)  神戸市中央区役所は、平成四年七月六日、上記滞納処分について、参加差押をし、同日、その登記を経由した。

(4)  抗告人は、平成五年一二月一七日、上記会社から、期間三年、賃料月三万円等の約定で本件建物を賃借し、以来、雑貨品販売店として使用してきた。

(5)  上記組合は、平成九年一一月二〇日、神戸地方裁判所に対し、本件建物について競売申立を行った。同裁判所は、同月二一日、競売開始決定をし、同月二六日、その登記を経由した。

(6)  その後、続行決定を経て競売手続が進行し、平成一〇年一〇月一四日、相手方を最高価買受人とする売却許可決定がなされた。そして、相手方は、同月二二日、神戸地方裁判所に、代金を納付するとともに、本件建物の引渡命令を申し立てた。同裁判所は、同月二三日、この申立を認容し、抗告人に対して本件建物の引渡しを命じた。

三  上記認定事実によると、抗告人の賃借権は、上記組合の根抵当権に劣後するが、短期賃借権として、買受人に対抗できるものと一応いえる(民法三九五条本文)。

しかし、抗告人の賃借権は、神戸市中央区役所の滞納処分による参加差押に劣後している(先行していた大阪国税局の差押が解除されたことにより、神戸市中央区役所の参加差押が遅くともその登記時点にさかのぼって差押の効力を生じた。地方税法により準用される国税徴収法八七条一項二号参照)。そして、滞納処分による差押後に民事執行法による競売手続が開始され、続行決定がなされたときは、前者による差押は後者による差押に遅れたものとみなされ、売却によって失効したものと扱われる(滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律二〇条、一七条、一〇条一項、三二条)。そして、神戸市中央区役所において交付要求をしている。それ故、先着手主義の原則と滞納処分庁が続行決定に対して不服申立ができないことに照らし、民事執行法五九条二項を類推して、滞納処分による差押に遅れる不動産にかかる権利の取得は、売却によって失効すると解するのが相当である。結局、抗告人の賃借権は買受人に対抗できるものとは認められない。

以上のとおり、抗告人は、事件の記録上、買受人に対抗できる権原により本件建物を占有していると認められる者に当らない(民事執行法八三条一項)。したがって、抗告人に対して本件建物の引渡を命じた原決定は相当である。

第三  よって、本件執行抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担として、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 播磨俊和)

〈以下省略〉

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